貧乏神に取り憑かれると、お金って本当に消えちゃうの?
ほう、今日は妖怪の話か。だがアリスよ、それはれっきとした「お金の話」だニャ。
アリスよ、秋の夜長にふさわしい問いを持ってきたな。消費税、日銀、金利、円──このブログでは、ずっとお金の話をしてきた。そして今日の主役は、お金の話をするなら避けて通れない妖怪、貧乏神だ。
先に答えを言っておこう。お金は消えない。移るだけだ。貧乏神の正体は、この「移る」の中に隠れておる。600年生きたサバトラの肉球で、ひとつずつ解きほぐしてやろう。
貧乏神とは何者か
貧乏神は、家に住みつき、その家を貧しくしてしまう神だ。言い伝えでは、押し入れの奥に住む、焼き味噌の匂いが好き、などと語られてきた。
面白いのは、昔の人が貧乏を「外からやってきて、居座るもの」と考えていたことだ。働きが足りないから貧しくなる、とは考えなかった。何かが家に入りこみ、気づかぬうちに財布の中身を持っていく。そう感じていたのだニャ。
そして、この感覚は案外、正しい。
お金が「消える」3つの形
財布からお金が減る、と一口に言っても、中身はまるで違う。私は3つに分けて考えておる。
1. 使って消える──これは「交換」
パンを買えば、財布からお金は出ていく。だが、手元にはパンが残る。お金はパン屋に移っただけだ。これを貧乏神のしわざとは呼ばん。
2. 値打ちが消える──これが「インフレ」
本物の貧乏神はここに住んでおる。財布の中の紙幣は1枚も減っていないのに、去年買えたものが、今年は買えない。枚数は同じなのに、値打ちだけがすっと抜けていく。音もしないし、泥棒が入った跡もない。
では、抜けた値打ちはどこへ行ったのか。物の値段が上がれば、借金の重さは軽くなる。100万円の借金は、物価が倍になれば、実質は半分の重さだ。お金を貯めている者から、お金を借りている者へ。値打ちは静かに移っておる。そして、この国でいちばん大きな借り手が誰か──このブログの読者なら、もう分かるはずだ。国だ。物価が上がれば、国の借金も軽くなる。そういう仕組みだニャ。
3. 引き出せなくなる──これが「預金封鎖」
3つめは、いちばん露骨な形だ。通帳の数字は残っているのに、自分の金を自分で下ろせない。以前の記事で話した、1946年の預金封鎖と新円切り替えがそれだ。
昭和二十三年──貧乏神が「時代」に取り憑いたころ
戦争が終わったあとの日本は、この3つがいっぺんに襲いかかった時代だった。
- 1946年2月、預金封鎖と新円切り替え。自分の預金なのに、引き出せる額に厳しい上限がつけられた
- 物価は数年のうちに何十倍にもなった
- 配給だけでは食べていけず、人々は焼け跡の闇市で、決められた値段よりずっと高い値で食べ物を買った
コツコツ貯金をしてきた者ほど、その値打ちを失った。貧乏神は、一軒の家ではなく、国まるごとに取り憑いたようなものだった。昭和二十三年、1948年の東京は、まだその真っただ中にあったのだニャ。
いま、私たちのそばにいる貧乏神
では、いまはどうか。勘違いしてもらっては困るが、私は「明日にも預金封鎖が来る」などと脅すつもりはない。
ただ、物の値段が上がり、預金の利息がそれに追いつかないとき、財布の中では2つめの貧乏神が、音もなく仕事をしておる。お金は消えない。移るだけだ。そう知っておれば、「どこへ移っているのか」を見る目が持てる。貧乏神を追い払う第一歩は、まず姿を見ることだニャ。
さて、ここまで読んでくれたおぬし。おぬしの財布に住みついている貧乏神は、3つのうちのどれだと思う?
余談:貧乏神が探偵をやる本
最後に、ひとつだけ紹介させてくれ。
えっ、師匠。まさか、あの本の話ですか?
この「お金が消える時代」を舞台にした小説がある。弟子のアリス、つまり君野アリスが書いた「貧乏神探偵とパイナップルの缶詰」だ。10人の作家が「妖怪×探偵」で書いたアンソロジー『妖怪探偵』に入っておる。
昭和二十三年、焼け跡の東京。金庫から大金が消えた。
探偵の名は矢代玄吾。あだ名は、貧乏神。
「俺が関わった金は、一年と経たずに持ち主の手から消える」
金の匂いを嗅ぎ分ける探偵の話だ。表紙には化け猫もおる。
- Kindle Unlimited なら0円で読める(それ以外は99円)
- この本の収益は全額、動物愛護活動を行う団体へ寄付される
師匠に紹介してもらえるなんて、思っていませんでした。……読んでもらえたら、うれしいです。
猫が紹介する本の売り上げが、動物たちのために使われる。悪くない話だろう?
